フルメタル・ジャスティス

フルメタル・ジャスティス裁判員制度によって徴兵された裁判員たちを描いた本、およびそれを原作とした映画である。

あらすじ編集

21世紀初頭の日本、増え続ける刑事裁判により、正規の裁判官だけでは裁判要員が不足していた。法務省では裁判要員についても徴兵制をモデルにした制度を作り、要員を補充できるようにしたいと考えた。

2009年、法務省は国民の多数が反対する中、裁判員法を施行した。この法令を推進した政治家たちは、「これこそ平成の徴兵制だ」と絶賛した。

各地で裁判員の強制徴用に反対する運動が起こったが、彼らは片っ端から逮捕され裁判にかけられることになる。そのため、さらに裁判の件数が増えてますます裁判要員が不足した。

法務省では、成人したばかりの若者も裁判員として徴用した。また、裁判員を絶賛する宣伝に力を入れた。多くの若者が裁判員として法務省に徴用された。法務省は「徴兵」という表現を避け、「徴用」と称したが、入省する裁判員候補者たちからは「徴兵」と呼ばれていた。

ただ、裁判員になれば法務省所属の裁判員となれ、裁判所で座っていれば給与がもらえるので自ら裁判員を志願する者もいた。

主人公の「私」は、他の徴用された裁判員訓練生たちといっしょに法務省の訓練所に入れられる。そこは、一般社会で自由に生きていた者を零から鍛え直す場所だった。被告からの報復に備えて護身用の銃が貸与されるので銃器の取り扱いを学んだり、また、被告との議論に勝つ為のテクニックや刑事訴訟法などの法令を学ぶのだ。

裁判員たちはここで1ヶ月過ごすと、いっぱしの裁判員となり、裁判所へ送られていく。法務省から派遣された教官は、情け容赦のない男だった。

「貴様等が俺の訓練に生き残れたら、一人前の裁判員となる・・・その日まではウジ虫だ!地球で最下等の生命体だ!」
「貴様等は人間ではない!両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!」

朝から晩まで裁判員訓練生に罵声を浴びせる教官。ある若者は、訓練の何をやらしてもヘマばかりだったから、ことさら教官の標的にされた。

薄笑いを浮かべる彼に、教官の罵声が飛ぶ。

「グズ、ノロマ!裁判所へ行く前に裁判が終わっちまうぞ、アホ!」

教官はいう。

「裁判で死刑を出したいと思うなら、本能を研ぎ澄ますことだ!裁判員制度は形式に過ぎない。判決は鉄の心臓がやる!」

ある夜、教官の点検を受けた彼は、荷物の中に隠したマンガを見られてしまった。おかげで責任は全員に及び、腕立て伏せの制裁となる。ある夜、全員がベッドに着いた後、彼へのリンチが行われた。皆で打ちのめすのだ。ためらう他の者たちも参加せざるを得なかった。

以来、彼に変化が起こった。目つきが変っている。 殺人事件の証拠写真を見るための訓練で、彼はは目ざましい成果を上げる。教官も珍しく彼を称えた。「見事だ、貴様の取り得をついに見つけた!」 他の訓練生たちは刑事訴訟法を読みながら自分の六法全書に話し掛ける彼を気味悪く思うのだった。

訓練期間最後の夜、私が、護身用の銃に弾を込める彼を見た。彼の目は異常だった。

「・・・実弾か?」

と聞くと、彼はこういった。

「・・・完全(フル)・・・被甲(メタル)・・・弾(ジャケット)・・・」
「教官に見られたらひどい目にあうぞ」
「・・・俺はもう・・・ヒデー・・・クソだぜ・・・裁判員制度を作った奴らに死刑を言い渡す!!」

教官が騒ぎを聞いて駆けつけた。彼は、教官に銃を向け胸を撃ち抜くと、自らの口に銃口をくわえ、引き金を引いたのだった。


訓練期間を修了した私は、東京高等裁判所に配属され、犯罪者たちに次々と死刑を言い渡した。それはやりがいのある仕事であった。

しかし、私が見たものは腐敗した裁判所の姿だった。

指揮官である裁判官の下に数人の裁判員が配属されているのだが、裁判中だというのに居眠りをしている裁判員もいるし、携帯電話のメールに夢中になっている者もいる。裁判の模様を2ちゃんねるに実況書き込みしている者もいたが、裁判所に見つかってしまい、軍法会議にかけられた。その裁判員は「強制的参加に対する抗議の意味で実況した」と主張したが処刑されてしまった。処刑される前に「裁判員制度廃止万歳」と叫んでいたという。

2年間の任期を終え、帰郷した私に故郷の人々は冷たかった。私は「在郷軍人会」にヒントを得て、「在郷裁判員会」を組織した。

しかし、相変わらず仕事はなかった。裁判所では人の命さえ左右することができた私が、今では時給100円の仕事さえ得られないのだ!

そんなある日、ラジオのニュースが聞こえた。

「来年から、裁判員制度が廃止されることになりました・・・」

私は、失われた時間と人生を取り戻すため、国を相手に訴訟をおこすことに決めたのだった。


評判編集

これの作者は、元裁判員であり、自分の実体験の他、複数の関係者から取材をして執筆されたものである。そのためフィクションの体裁を取っているが、限りなくノンフィクションに近い。

原作には、パンツ一丁で出廷する裁判員など、奇人も登場するが、映画化の際にはあまり過激な描写は避けられているため、そういった登場人物は出てこない。

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