UnNews:インターネットが楽しめる!? "型破りな老人ホーム"

【2023年3月9日 配信】

パソコンに向かっている入居者

神奈川県横浜市旭区にある、介護付き有料老人ホーム「ヴィラネット横浜」。中に入ると一見、どこにでもあるような普通の老人ホームに見えるが、入居者の個室を覗くと、そこにはパソコンの画面と真剣に向かい合っている高齢者の姿があった。

総務省が実施する「通信利用動向調査」によると、令和3年(2021年)の高齢者インターネット利用率は国民全体の利用率82.9%に対して、65歳以上の利用率は53.4%、更にその中で60~69歳でインターネットを利用している割合は84.4%[1]と、高い数字であった。また、令和3年度に限らず、高齢者のインターネット利用率はここ数年間は高い傾向にあり、現代日本において進行している少子高齢化に伴い、また、かつてインターネット黎明期を過ごしていた多くの若者も何時までも若いままではいられず、もちろん年を取るので、近い将来はより高い数字になることが予想される。

このような事態を受けてか、現在、入居者がインターネットを楽しめる環境を充実させる取り組みを行っている「ヴィラネット横浜」は「型破りな老人ホーム」として密かに注目を浴びており、「ヴィラネット横浜」を運営している株式会社神奈川シニアライフ(本社:神奈川県横浜市)によると、神奈川県内に限らず、日本全国から入居の相談をしてくる者が多数いるという。

設立の経緯編集

現在、日本における老人ホームでは、身体機能の向上・維持脳の活性化コミュニケーションの促進、の3つを目的として、「風船バレー」、「折り紙」、「しりとり」、そして、時には幼稚園の園児たちの訪問や地元の中学高校の文化部による発表会等による「異世代交流」等といったレクリエーションが行われている。しかし、これらの内容のレクリエーションは若干、子どもじみており、実際に利用者から参加を拒否するようなクレームが度々出たり、施設を見学しに来た高齢者が入居を拒否するような事態が発生していることが課題となっている。

「ヴィラネット横浜」を立ち上げたAさんは以前、別の介護施設で働いていた際にこうした課題に幾度となく直面しており、その課題の解決法を考えた結果、インターネットに触れる高齢者が多くなっていることへの対策も兼ねて、今の施設のような、インターネットを利用したリハビリを取り入れ、そのためにインターネット環境が充実している介護施設を開設することを思い立ったという。

実際、長年高齢者医療に関わってきたBさんは、「5chTwitterアンサイクロペディア等といった、文字言語により(時には動画や写真を使いながら)情報や意思を伝達するようなサイトを利用することにより、どう書き込めば正しく相手に自分の意思が伝わるのか必死に考える習慣、そして自分の書き込みが『受けた』『受けない』っていう楽しさや悔しさ、承認欲求などが、認知力を上げる」と注目しており、実際、アメリカの国立老化研究所、およびメイヨー財団の支援プロジェクト研究によると、パソコンに向かってネットゲームやネットサーフィンに興じる老人は、実は認知症を発症するリスクが低いという結果[2]が出ている。

目的が持てる機能訓練編集

入居者にとって達成すると嬉しくなるようなはっきりとした目的があまり無ければ結果として、ただ苦痛なものになりがちな機能訓練も、この施設では、機能訓練をこなすことでインターネットの回線のパスワードが書かれた紙を渡すことにより入居者に目的意識を持たせ、他の施設で行われているようなものよりも意識の高い機能訓練を行えるようにした。インターネット回線のパスワードは施設で1日ごとに変更するようにしており、インターネット回線のパスワードが書かれた紙は機能訓練に参加した場合にしか渡されないため、結果として毎日機能訓練に参加するように工夫がされている。

レクリエーション編集

 
ヴィラ横浜の入居者の心身維持・改善率の推移を表したグラフ。

高齢者は活発に生活するためには、身体機能の向上・維持、脳の活性化、コミュニケーションの促進、の3つが軸となるが、この施設では、脳の活性化、コミュニケーションの促進のために、インターネットを利用したレクリエーションが行われる。インターネットでの活動内容については、基本的に各入居者の自由となっているが、とりわけ、5chやTwitterでの書き込み、そしてウィキペディアやアンサイクロペディアでの執筆活動(特にウィキペディアやアンサイクロペディアといったWikiサイトは、記事作成のための準備に、時には外出も伴う[3]ような資料調査や発想力、文章構成力などが求められる)は自ら考え行動していくことが強く求められることから脳機能の活性化につながるため、積極的に行われている。また、ここ最近はYouTubeニコニコ動画などといった動画配信サイトの投稿入居者も増えている。これらのサイトへの投稿のための写真・動画撮影やネット上のコミュニティでの活動を通して、入居者同士や、果てには同世代の人とだけではなく、自分よりもはるかに年下の若者などといった幅広い世代とのコミュニケーションも行われる。インターネットでの活動を通して、文章を考えるための思考力が鍛えられたり、感情に沢山の刺激を与えられるため、楽しみながら脳機能を活性化することが出来る。

また、パソコンに慣れていない入居者向けに外部から講師を呼んで定期的にパソコン教室を開催する等、入居者のネットスキル等に応じた講習会も用意されており、その講習会等を通じて職員や入居者同士のコミュニケーションが取れる機会を用意することにより、通常の老人ホームで行われているレクリエーションと同じように対面でのコミュニケーションをすることが出来るようにもなっている。

実際に入居者に話を聞いてみると、


入居者(71歳・男性):「5chやっていて楽しいから、特に実況やレスバをしていると、素早く手指を動かすから頭が活性化する

入居者(83歳・男性):「アンサイで記事を書くために色んな本を読むから、家で過ごしていた時よりも知識が増えた

入居者(75歳・女性):「楽しい!頭の体操になる。今はユーチューブで配信してコメントをもらうことに生きがいを感じています


等といった声が上がっており、インターネットを利用したレクリエーションによるリハビリの効果は抜群の様である。

また、ヴィラ横浜の調査によると、入居者の心身機能維持・改善率が非常に高い傾向となっており、二年後の維持・改善率はなんと84パーセントだという。このことから、インターネットによるリハビリは非常に効果的と考えられる。

しかし、日常的にインターネットに触れることによって、依存症への懸念はないのだろか。これについて、Aさんは「利用時間の制限などの対策もしっかりしているため、開設してから一度もそうした事例はない。むしろ、入居してから元気になった方も大勢いる」と述べており、また、高齢者医療に詳しい医師Cは、「適度に休憩時間をとる、寝る1時間前はパソコンに触れない等、適度にインターネットに接していれば、囲碁将棋に打ち込むこととさほど変わらないので依存症の心配はない、むしろ、何も考えずにテレビを見ている方がよほど有害であり、その点、インターネットは頭と手指を動かすので脳の活性化に良い」と述べているため、依存症への懸念はないと言える。

入居したことで...新たな生きがい編集

この施設の入居者の1人、安斎黒兵さん(86)は、この施設に入居してから、要介護度が「2」から「1」に改善したという。

安齋さん :「(5chでの書き込みに)反応してくれたらうれしいし、反応してくれなかったら悲しいし。ストレスが少ないですね、家でテレビを見ているよりは」

安齋さんは数年前に長年連れ添っていた妻を亡くしたことと、コロナ禍をきっかけに、口数が少なくなり、閉じこもりがちだったが、その様子を見かねた息子が安齋さんを「ヴィラ横浜」に入れたことがきっかけとなり、5chで頻繁に書き込みをし、反応してもらうという新たな生きがいを得た。また、最近はアンサイクロペディアでの活動にも夢中になってり、いつか自分の書いた記事が新着記事、そして秀逸な記事に選ばれることが目標だという。

安齋さん:「息子から、家にいた時よりも生き生きとしていると言われるようになった。そらそうよ。インターネットで色んな人と話できるしね」

入居にかかる費用は?編集

気になる費用だが、

  • 入居金(一時金方式):2,109~6307万円
  • 生活支援サービス費 :550~922万円
  • インターネット料金 :5万円~/年

となっている。なお、インターネット料金については、入居者に快適にインターネットを利用してもらうため、5chで「プレミアム Rounin」の利用、ウィキペディアでの寄付などをするための費用が含まれており、最低でも年に5万円負担となるが、その他のネット上のサービスに追加で加入する場合にはこれ以上の費用となる。

脚注編集

  1. ^ これはインターネットを利用する国民の内、約6割は高齢者であり、更にその8割が60~69歳であることを示している。
  2. ^ 2015年4月8日、アメリカ神経学会発行の医学専門誌「Neurology」オンライン版に掲載。
  3. ^ 外出による資料調査には介護職員が同伴する。
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