無限列車

無限列車とは、大正時代の実際に起きた悲惨な鉄道事故を元とした都市伝説である。

概説編集

 
浸透し始めた蒸気機関車は、せめて庶民に親しんでもらおうと広告を載せたりしていたが、効果のほどは今一つであった

日本鉄道が普及したのは20世紀初頭とされる。明治時代において、富国強兵の要となる鉄道は徐々に延伸を伸ばしていった。そして、当初は都市部の住民だけが利用していた蒸気機関車も、地方住民が乗るようになり、鉄道馬車や人力車から変わって「庶民の脚」になっていった。

しかしながら、「を吐き猛スピードで移動する鉄の塊」など当時の人々にとっては全く見たことも聞いたことも無い技術の結晶であったため、当然のように利用者の間で様々なトラブルが発生していった。有名な例を挙げると、座敷のようにを脱いだまま乗ってしまった、「狐か狸に化かされているんだ」と大の男が泣き叫んだ、あまりに驚きすぎるあまり猪の毛皮を被って刀を振り回して斬りかかった気のふれた客がいた、などである。

こうした人々の恐怖パニックは一つの都市伝説を生んだ。「それは、ある列車に乗った人々が、二度と降りてこなかった」という蒸発事件である。所謂神隠しという奴だ。現代でもよく「人が消える更衣室」などと言った話があるが、それに類する話と言えるだろう。だが、具体的にどこの誰が行方不明となったのかと言う、検証可能な明確なソースが無く、この蒸発列車に関する話は、いわゆる農村の身売りや誘拐などの事件が大袈裟に噂となって広まっていった「噂」の範疇に過ぎなかった。

そう、あの惨劇が起こるまでは。

事故の一部始終編集

大正某年、その事件は起きた。現検閲により削除検閲により削除市における蒸気機関車の脱輪事故である。8両編成の列車「無限」(8620型)が稼働中、乗員が突如として昏倒し、列車が暴走状態となったのだ。このままでは、駅に列車が衝突して乗員乗客は全滅だ。そんな一大事に、一人の勇気ある青年が立ち上がった。

青年の名は煉獄杏寿郎(以下煉獄さんとする)。煉獄さんは暴走する無限列車がに衝突するのを防ぐために車内を駆け回り、操縦室に向かった。しかし列車の暴走は止まらず、意を決して煉獄さんは窓から飛び出し、自ら分岐路に飛び込んで無限列車の進行方向を変えたのである。無限列車は脱輪したが、減速により乗員乗客に死亡者は出ず、運転手1名の重傷と‥‥‥煉獄さんののみで、この傷ましい事故は幕を下ろした。

煉獄さんの犠牲は煉獄さんの友人一同にとってもショックが大きく、煉獄さんと共に無限列車を止めようとした少年「誰も殺さなかったんだ! 煉獄さんの勝ちだぁぁぁーーーーっ!! お前らの負けだぁあぁぁーーーーっ!!」と慟哭したという。この鬼というのはいわば不幸、すなわち乗員乗客の死の暗示と思われる。それだけ煉獄さんの勇敢な姿は慕われていたのだろう。

この事故は新聞に載り、多くの国民が勇敢な青年の死に涙した。そして煉獄さんの(美化された)錦絵は飛ぶように売れ、童謡にもなり、後に修身教科書にも採用され、戦時中は「煉獄サンハ、無限列車ヲ止メテ死ニマシタ」と子供でも知っていたという。

都市伝説の発展編集

 
善逸伝の著者・我妻善逸。見るからに信頼できそうにない

この悲惨な事故(そして美談)と、前掲の「蒸気機関車に対する不安」が合わさり、国民の鉄道への不信感はピークに達した。「無限列車は噂に聞く『人が消える列車』と同一で、鬼の陰謀によりこの事故が発生したのだ」という噂が生まれるのに、そう時間はかからなかったのである。

煉獄さんの早すぎる死に対する判官贔屓に話題が遷ったのもあって、やがてこの『蒸発列車』本来の噂はパッタリと消えた。つまりは「煉獄さんは我等の犠牲となって蒸発列車≒無限列車を調伏したのだ」という、英雄伝説が生まれたのである。ま、言うなれば源頼光酒呑童子退治とか岩見重太郎狒々退治のような尾ひれの付き過ぎた話の類である。だが、大正デモクラシーを迎え、関東大震災などの暗い闇が日本を覆う中で、そうしたわかりやすい英雄伝説が国民の眼を引き付けたのだ。

この事件の数十年後に、「俺はこの無限列車に乗っていた」と豪語し、更に「俺は煉獄さんの友人だった」という、どう考えても都合の良すぎるホラの呼吸と思しき手記が記されている。その書物の名は『善逸伝』。同書の著者・我妻善逸によると、無限列車横転事故は以下の様な「事実」であったとされる。

乗り込んだ人々が姿を消すとされた無限列車に、「英雄」煉獄さんは果敢にも乗り込んでいった。
その夜、私は後の義兄・竈門炭治郎、そして一番の子分である嘴平伊之助と共に、煉獄さんの手助けをすべく20米ほど跳躍して無限列車に飛び乗った。
その無限列車は催眠術を使う鬼により占拠され、眠りに落ちた人々は鬼の餌として献上されていたのだ。我々も卑劣な鬼の策略により眠りに落ちてしまった。
しかし、いち早く目覚めた我が愛しのベリヰキュウトな妻・禰豆子の活躍により私達は鬼の策略から脱することが出来た。
義兄・炭治郎と私の一番の子分・伊之助は、暴走する列車を止めるべく走行中の列車の屋根によじ登って先頭車両に向かって行き、待ち受けていた鬼と交戦した。
追い詰められた鬼はこともあろうに無限列車そのものと合体し、乗客を喰らおうとしたのである。
私と煉獄さん、そして我が愛しのスイヰトヱンゼル禰豆子は奮戦し、残っていた鬼の頸を義兄・炭治郎は獲った。
これにより無限列車は横転するも、煉獄さんの奮戦により車体は減速し、乗員乗客は全員無事であった。
無限列車中を駆け回り鬼どもを蹴散らした私の活躍に、後のウルトラホヲリヰベアウチフル妻・禰豆子が「素敵よ善逸さん」とますます惚れ直したのは言うまでもない。
だが、事態は一変する。線路脇の森の中から鬼の仲間がもう1匹訪れ、煉獄さんを攫おうとしたのである。
その鬼はあまりにも強く、当時の私達では全く歯が立たなかった。
煉獄さんはその凄まじく強い鬼と懸命に戦ったが、既に体は限界を迎えていたため、鬼に腹を貫かれて命を落とした。
その時、朝日が昇ったため、日光を嫌う鬼は尻を見せて逃げていった。世に言う「煉獄さんの勝ちだ」と発した少年は、何を隠そう我が義兄・炭治郎である。
この戦いは我々にとって数多訪れる悲劇の一つに過ぎなかったが、煉獄さんの魂の炎は私や義兄・炭治郎、そして私の一番の子分・伊之助に多大な勇気を与えたのだ。
出典:我妻善逸『善逸伝』第八巻六十六頁

いかがであろうか。どう見たってウソだと一発でわかる内容であろう。歴史的事件に居合わせたと豪語し、さらにはその場で「英雄」煉獄さんと同席し、なおかつ新聞にも載った名言を残した人物をこともあろうに自分の係累と豪語し、あまつさえ子供の妄想の様な怪獣と常軌を逸した戦いを敢行し、挙句に自分の力で大勢の人の役に立ったという、実に面の皮の厚い記載である。信用度は山の中でを倒したというお年寄りのの席の話や、DQNをタイマンでボコったと豪語するキモオタの武勇伝より低いとみてよいだろう。

だが、このような「自称・煉獄さんの仲間」「自称・無限列車からの生還者」による吹聴は我妻以外にも多発し、大戦末期には国威高揚[1]も兼ねてか「走行中の列車の中で煉獄さん、並びに我妻ら(善逸伝では『鬼殺隊』と呼称)により、鬼との対決が行われる」という演劇講談まで作られるに至ったのである。もはやそれは都市伝説の枠を超え、単なる「伝説」となってしまったと言っても過言ではない。

線路は続くよ、どこまでも編集

かくして大勢の命を救った一人の青年は、民衆のヒーローとして多くの作品の題材となった。無限列車横転事故現場には慰霊碑が立てられ、煉獄さんは交通安全を司る民間信仰の対象となったのである。ここまでくると、もはや関羽とか源義家である。煉獄さんの遺族ら[2]もこれには苦笑いしているらしい。

そして平成も終わりになったころ、このホラ話集『善逸伝』を発見した一人の女性が、その面白いホラに魅入られ、ある作品を執筆した。それが『鬼滅の刃』という漫画である。著者・吾峠呼世晴はあくまで我妻の云う「鬼」伝説を「実際にあった話」として、我妻の妻・禰豆子の兄である竈門炭治郎なる極めてマイナーな実在の人物を主人公とし、死人に口なしとばかりに更にホラにホラを重ねて娯楽作品としたのがこの漫画である[3]。この『鬼滅の刃』の序盤の最大の盛り上がりとして無限列車横転事故が描かれており、これにより浪曲時代劇に興味が無い若者にも浸透することとなった。

そして、平成が過ぎて令和の世となったころ、無限列車ブームによりJRが一時的に観光列車としてSL無限列車を走らせるに至った。内部では車内食としてソーセージの丸焼きやきりたんぽが配布され、食べる際には「うまい!」と連呼するよう厳命された。新型コロナウイルスの流行も鑑みて、全国各地で一斉発車を試みたにもかかわらず、乗降者はのべ1700万人を突破、切符収入は1枚1800円と高値で挑んだにもかかわらず400億円を突破したという。

一人の勇気ある青年により、人々を覆っていた蒸発事件という不安は焼き尽くされ、その魂は未来へと受け継がれていった。日本人の心の竈門にくべられる炭に燈った勇気のは、今日も日本という列車を動かしているのである。

脚注編集

  1. ^ 」が何を示すかは言うまでもない。
  2. ^ 異常なほど煉獄さんにそっくりな父や、異常なほど煉獄さんにそっくりな弟。また、現在も煉獄家は続いているが、この子孫も煉獄さんそっくりである
  3. ^ 連載に当たって、竈門の遺族並びに著者である我妻(執筆当初はまだ生きていた!)から許可は貰ったらしい。

関連項目編集

ユーモア欠落症患者のために、ウィキペディア専門家気取りたちが「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」の項目を執筆しています。
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